朝、目を覚ました。
いつもの時間に鳴り響く目覚まし時計を止めて、重い頭を奮い起こして体を動かす。


いつもならシャキッと目が覚めてベッドから抜け出し、ササッと朝ごはんを食べて会社に行く支度を始められるのに。
今朝はそれが出来なかった。


原因は分かっている。重々承知のすけだ。


俺は昨夜、東山さんと食事をした。
そして彼女から好きな人がいることを聞き、さらにはその好きな人の「2番目の彼女」であることを悲しむこともなく話してきた。
しかも相手はあの男から見てもいい男としか言いようのない熊谷課長。
彼女にとって、彼に求められるということだけでそれ以上に幸せなことはないのだ。


そんな話を聞いて、あぁそうかバカな女だな、それじゃもうサヨナラって思えたならどんなに良かっただろう。
東山さんが笑って熊谷課長の話をしたから、猛烈に胸が痛んだのだ。
テーブルに伏せって、「私ってなんて不幸な女なの!叶わない恋だと分かっていながらセフレに成り下がってしまうなんて!でもそれくらい課長が好きなの!」とか騒ぎ立てていたら、もしかしたらこの恋を手放したかもしれない。


それが出来なかったのは、彼女が幸せそうに笑っていたからだ。
俺には理解出来なかった。


で、結果。
やっちまったのだ、俺は。
耐え切れなくて。


帰り際、「ごちそうさまでした」と笑顔を見せる東山さんの手を握り、思わず言ってしまった。


「好きだ」と。