参った、参ったぞ。
俺がつけ入る隙なんてどこにも無さそうだ。
山下をカゲでこそこそいじめるくらいしか手立てが思いつかない。
どこかの小姑じゃあるまいし、そんなの無理に決まってる。


じゃあせめて、教えてくれよ。


「山下のどこがいいんだよ」


思わずつぶやいた、俺の本音。
後輩を悪くは言いたくないけど、山下は営業課で頑張って働いてる。
だけど、こっそり会社の裏の喫煙スペースで先輩たちの悪口を言ってるのも知っている。
そんなもん会社で言うのはやめろと最上が注意したら、今度は最上をカゲで口撃してきたらしい。


あんな見せかけの男に騙されるなんて、仕事だってまだまだ新規の取引先を押さえることも出来ない男に騙されるなんて、東山さんらしくない。


ところが俺のボソッとつぶやいた一言で、彼女が眉を寄せて「え?」と聞き返してきたのだ。


「山下さん?営業課の?」

「違うの?」

「違いますよー!確かに連絡先聞かれたり、飲みに誘われたりはしましたけど……」


チッ、あいつめ!


「じゃあ一体誰?」

「そ、それは…………」


口ごもる東山さんは、目を泳がせて困っている。


困らせている俺自身にも腹が立ったが、今はそれ以上にそのゲス男に腹が立っている!