メニューに視線を落としながら、チラッと彼女の顔を見る。
伏せられた睫毛の長さとか、ほんのりピンクに彩られた頬とか、柔らかそうな唇が……可愛い。
どうしてこの人はこう、いちいち可愛いんだろうな。


「生ハムとほうれん草のキッシュと、イカとサーモンのマリネと、ホタテのアヒージョと、それから…………、神田さん?」


メニューを懸命に選んでくれているというのに、すっかり彼女に見とれていた俺は、彼女に名前を呼ばれるまでボーッとしていたらしい。
ハッと我に返ったら、東山さんが不思議そうな顔でじっと俺を見つめていた。


「ごめんごめん!前菜はそれで、あとはタラモピザと、パスタはアラビアータにしよっか」


適当にメニューを見繕って、それらを注文した。
もちろん、お酒も一緒に。
俺は生ビール、彼女は甘いカクテルをオーダーした。


「神田さんの地元ってどのへんなんですか?」


お酒や前菜はすぐに届けられ、料理などは率先して東山さんが取り分けてくれた。
作業をしながら話しかけてくる。


「俺の地元は市内なんだけど中山の方でね……知ってる?観音様とかあるところ」

「う〜ん、知らないです」

「東山さんの地元はどこなの?」

「私は秋田県出身なんです」


秋田美人とはよく言ったものだ。
まさに彼女のことじゃないか。


「今年の春からこっちに来たんだもんね。それなら不安だらけだったでしょ」


家族もいない、友達もいない街でひとり暮らしをして生活していくのはなかなか大変なことだ。
そう思って言ったつもりが、彼女は笑顔で首を振った。


「そんなことないですよ。最初は不安もありましたけど、会社に入ってすぐにそれは無くなりました」

「へぇ、そうなの」

「みんないい人だし、仕事も楽しいし…………、それに……」

「それに?」

「あ、いえ……」


何故か言葉を濁した彼女は、カクテルを一口飲んでニコッと微笑んだ。
ごまかされた……ような気がしなくもない。