すぐに答えてくれた東山さんの意外な返事に、俺は「え?」と顔を上げて彼女を見つめ返した。
どうやら彼女は、俺が食事に誘ってきたのは下心などはなく、本当にコーヒーのお礼をしたいからなのだと判断したようだ。


「私、春からこっちに引っ越してきたばかりで美味しいお店とか知らないので……良かったら教えて下さい」

「う、うん!もちろん!」

「そうだな〜、大人の男の人が好きそうなお店がいいです!」

「大人?うん、分かった!」


オッケーしてくれたという嬉しさで、彼女の意味深な発言は一切耳に引っかかることなく通り抜けていった。


後輩を可愛がってくれる先輩という立場に置かれたのにも気付かず、俺は1人で舞い上がっていたのだった。





そうして俺は彼女と2日後の夜に食事に行くという約束を取り付けて、非常に軽やかな気持ちでどんなお店に行こうかと一生懸命グルメサイトを探し回った。


事務課の元気な先輩女性の大野さんや門脇さんによく行くお店を聞いたり、デート向きのオススメのお店を聞いたり。
彼女たちには「おやおや、神田くんたら恋してるのかね〜?」と冷やかされたけど、笑ってごまかしておいた。


誰かに恋をするっていうワクワク感とかドキドキ感を感じるのは久しぶりだった。


あの可愛らしくて明るい東山さんを、短い時間でも自分のものに出来ると思うだけで心がぷかぷか浮かんでしまうほどだった。


彼女に好きな人がいるなんて、夢にも思わなかったのだ。