「あっ」


いい雰囲気だと言うのに、奈々が突然何かを思いついたみたいに声を上げて携帯を取り出した。


「プロポーズされたこと、早速コズに報告するわ!」

「━━━━━は!?」

「ちょっと待っててね〜。とりあえずラインを…………」

「奈々さーん、そういうのは後日にしないかーい」

「何言ってるのよ!幸せはみんなで分かち合ってこそでしょ?」

「そうか、そうやってすぐになんでも話してるから大野には筒抜けなんだな」


俺は全てを悟り、彼女の手から素早く携帯を奪い取った。
今この2人だけの幸せな余韻を、他の人に共有されるのは少し惜しい気がしたのだ。


「ちょっと〜、返してよ〜」


と不満げに口を尖らせる奈々の唇に、チュッと口止めのキスをしたら見事に黙った。


「あー、ママぁ、あのひとたちいまチューしたよ〜」

「こらっ、見ちゃダメよ」


ちょうど車から降りてきた子供に目撃されたけれど、それもいいか、と思った。
なんせ俺は幸せの絶頂にいるからだ。








美人で、スタイルが良く、仕事も手早くこなす俺の恋人。

少々意地っ張りで、周りからはクールだと印象づける気の強そうな彼女の裏の甘い顔を知っているのは、俺だけ。

素直になれない彼女の本音を聞き出せるのは、俺だけ。







彼女とこれから、一生を共に歩いていこう。
それだけで俺の人生は温かくて愛しいものになる。










田嶋順の物語

おしまい。