大野家御一行様が再び訪れたことにより、予定よりも早く部屋をあとにすることとなった。
小腹も減ったけど喉も乾いたから、と病院の中に設けられた喫茶店で軽くお茶をしてから帰ることにした俺と奈々は、ブレンドコーヒーを2つ頼んで席に着く。


あ、と何かを思い出したように奈々が立ち上がり、カウンターから何かを手にして戻ってくる。
その手には砂糖とミルク。


俺が何も言わなくても、砂糖をひとつ、ミルクを2つ。コーヒーカップに入れてスプーンでかき混ぜてソーサーごと渡してきた。


「ありがとう」

「どういたしまして」


奈々はミルクだけを入れたコーヒーを口に運び、何でもないと言うように柔らかく微笑んだ。
そう、いつものことだからだ。


彼女は俺が甘党なのを知っているし、コーヒーに砂糖とミルク(しかもミルクは2つ)を入れるのを知っているし、風呂上がりにアイスを食べるのも知っているし、給料日だけは高いアイスを買ってくるのも知っている。


「好きなものを我慢してほしくないから」と、俺が車を改造するのも止めずにニコニコして見ているし、そこへ金を使うのも咎めることはない。
きっと唯一のストレス発散だと理解してくれているのだ。


そして、無類のシュークリーム好きの俺が、しっとり生地のそれよりもサクサク生地のものの方が好きなのも知っているし、コンビニのロールケーキに長年ハマっているのも知っている。


たかだかコーヒー1杯で、そんな日常的なことを思い出した。