隣にいる奈々は、俺の顔を見て「単純ね〜」なんて笑っていたけれど。
俺はそんな彼女を、ボーッと見つめることしか出来なかった。


チラリと柊平を見ると、ヤツだけはどうしてなのか俺のことを温かく見守っているような目をしていた。
なんでこいつには俺のことが分かるのか。
昔から本当に読めない男だ。
読めない分、ボソッと繰り出すひと言の威力といったら半端じゃない。


今回は自分でちゃんと分かってるからアドバイスなんていらないよ、と笑顔でごまかした。
彼はコクンと小さくうなずき、何も言ってこなかった。


「田嶋ったら赤ちゃんが欲しくなったんじゃないの〜?」


かなり的を得たことを大野がからかうように言っていたけれど、それは聞こえない振りをしておいた。
奈々が僅かに反応して俺を見上げたのは気配で感じたが、それにも気づかないふりをした。


━━━━━その後、奈々は大野から出産の生々しい、いや痛々しいエピソードを聞いて震え上がったり、大げさにリアクションしながら笑っていた。


男2人は彼女たちのマシンガントークをひたすら右から左へ流し続け、ついに柊平は「飲み物買ってくる」とリタイアしてしまった。


残った俺は、きゃあきゃあ騒ぐ2人の笑顔と、そんな中でも気にせず眠る赤ちゃんを距離を置いて眺めながら、平和なひと時を過ごした。