「さすがに婚約指輪は俺が買ったけど、アレは冬のボーナスで間に合うよ。よっぽどバカでかいダイヤじゃなければ。あとの結婚式や新婚旅行のお金は梢と出し合った」

「婚約指輪…………、いくらしたの?」

「ノーコメント」

「プロポーズは?高級レストランとかで電気消してもらってロマンチックにプロポーズしたのか?」

「絶対無理。そんなのやるわけない。ノーコメント」

「なんでだよ!教えろよ!親友だろ?」

「とにかく」


俺の茶々を完全に無視した柊平は、遮るように言葉を続けた。


「順は1人で頑張ろうとしすぎなんじゃない?結婚って、1人でやるものじゃないでしょ。2人でやるから意味があると思うんだけど」


しれっと、サラッと、柊平はかっこいいセリフを言った。
俺が女だったら惚れていたかもしれない。
ぼんやりと親友を見つめ、もしかしたらこの時の俺は目からウロコが落ちたんじゃないかと思う。


目を見開いたままの俺に、柊平はテーブルをトントンと指で軽く叩いて言った。


「2年でその額を貯めたなら大したもんだよ。十分すぎるくらい、門脇に順の本気を示せるんじゃない?」

「………………そうかな」

「答えは、イエスしかない」

「本当にそう思うか?」

「思う」


コクンとうなずいた柊平は、笑っていた。
ほんの少しだけ、口元を緩めて。






結婚は、2人でするもの。
1人でやるものじゃない。


必要最低限しか話さない親友の言葉は、なんだか妙に説得力があり、そして重みを感じた。
同時に、俺の心を軽くしてくれた。


こいつに話して良かった、とホッとした。