何にも動じない目の前の男は、どうやら俺の言いたいことを悟ったらしい。
メガネの奥の目を細めて、要約してくれた。


「つまり、貯金が無いから結婚に踏み切れないってこと?」

「うっ…………、その通り……です」

「で、順の貯金は今いくらなの?」

「個人情報って言ったの柊平だろっ」

「じゃあこの話はおしまい」


恨めしい気持ちで親友を睨みつけた。
当の本人は涼しい顔でビールを飲んでいる。
そうだ、この状況では俺の方が立場は下だ。アドバイスを求めているのだから。


そっと人差し指を出して、テーブルに数字を書き出す。
柊平に見えるように、逆さまに。
周りのおっさん達に聞かれないように。


彼は俺の指の動きをじっと見つめた。
「なるほど」とつぶやく。
そんな柊平に、おそるおそる聞いてみる。


「2年でこんなもんだ。この額で婚約指輪買って結婚式やって新婚旅行に行くなんて無理だよな?」

「………………ハッキリ言うと、無理」

「だ、だよなぁ〜」


分かってはいた。
そりゃあそうだ、たった2年ちょっとやそこらで貯めた金なんてほんの少しでしかない。


ガックリ肩を落として落ち込んでいる俺に疑問を抱いたらしい柊平が、不思議そうな顔をした。
「順が1人で全部出すの?」と。


その問いかけに、俺は「え?」と聞き返した。


「普通、男が全部出すものなんじゃないの?」

「その普通っていうの、俺は知らない」


柊平は眉をひそめて肩をすくめた。