「奈々さ、陰でなんて言われてると思ってる?クールビューティーだよ、クールビューティー」


唐突に妙なことを言い出してきた彼に、なんなのよそれは、と呆れ顔を向けたあと食事を再開する。
濃厚なクリームをまとったうどんを口に入れて、咀嚼する。


「なんの陰口?」

「陰口じゃなくて、褒められてるみたいだよ。知らないと思うけど、本社の事務課の女の子って可愛い子が多いって有名なんだ」

「………………嘘でしょ?」

「本当だよ。長町支店にいた時にも散々聞いてたし、年に1回の社員旅行で、美人揃いの秘書課じゃなくて手が届きそうな可愛い子がいる事務課に、勇気を持って声をかけようって言ってる奴もわんさかいるんだから。心当たりない?」

「心当たりなんて…………」


言いかけて、あ、と思い出す。
記憶が薄れかけてはいるけれど、そういえば順と付き合う前に社員旅行で泉支店の横山とかいう男にしつこく言い寄られたんだった。
あれってそういうことなの?


目を泳がせている私に、優くんは楽しそうに体を揺らして笑う。


「ね?心当たりあるでしょ?美穂ちゃんなんか可愛いの塊みたいな子だし、梢だって黙ってれば可愛いんだよね、普段あんなだから誰も気づかないけど」

「コズはそこがいいのよ!あの豪快さと一直線な感じが最高なのよ!」

「うん、俺もそう思う。でね、本題はクールビューティーってところだよ」

「だから、なんなのその妙なあだ名は」

「つまり、奈々は周りから見たらクールに見えちゃってるってこと。そんなの心外でしょ?」


心外どころか、クールにしていたつもりもないから訳が分からない。
男の目は節穴なんじゃないのかと逆に笑えてくる。


「順くんは奈々の彼氏だから、そういう風に見たりはしてないと思うけど……」


優くんは目を細めて、ガツガツうどんを食べ続ける私をじっと見つめてきた。


「要するに、素直になって、甘えてみたらいいんじゃないかな?自分の気持ちを押しつけるばっかじゃなくて、順くんの気持ちもきちんと聞いてみなよ。きっと見えてなかったことに気づけると思うな」


もっともらしい意見を彼は言い、そして静かに再びうどんを食べ始めた。上品に、少しずつ。
意外と冷静に他人のことを分析し、アドバイスを送ってきたバイの彼に拍手を送りたい気分になってしまった。
侮れないぞ、彼は。


「………………ありがと」


私がボソッとお礼を言うと、彼はニンマリ笑って「頑張れ〜」とガッツポーズを作った。