ふふふ、とニヤついていたら、くるりと顔をこちらに向けた須和が右手で「しっしっ」と私を追い払う仕草をした。


な〜によ、私は邪魔者ってわけかい?
まぁいいわ。
気を利かせて出ていってやるか。


心の中で愚痴りながらも、空気を読んでそっとカーテンを開けて抜け出した。
カーテンの中からはコズと須和の会話が小さく聞こえてきて、なんとなく耳を傾ける。


「梢の両親には俺から連絡しておく」

「騒ぐと困るから、大したことないって言ってね」

「あと、俺が月曜日に本社に報告に行くから。仕事のことは気にしないで」

「………………うん、分かった」

「今は、自分のことだけ」

「うん、分かってる」

「残業が無ければ毎日来る」

「む、無理しないでいいよ、遠いし」

「じゃあ来ない」

「い、いや…………、来てくださいすみません寂しいですごめんなさい」

「素直になりなさい。ちゃんと来るから」


これは、思った以上に………………。


私はそそくさと病室をあとにして廊下に出てから、ほっこりした気分になった。


あの面白味の無い男だと思ってたヤツは、思った以上に私の親友を愛しているらしい。
相思相愛らしい。
心配しなくても、2人の絆は固いらしい。


その人間らしさを妻以外にも見せなさいよ、というツッコミは我慢ガマン。


なんだか私も無性に順に会いたくなった。
会って、「好き」と伝えたくなった。
好きな人の温もりが欲しくなった。


困難を一緒に乗り越えようとするからこそ生まれる形のない愛。
それを肌で感じて、優しい気持ちになった。


夫婦っていうのは、恋人と大きな変化は無い。
だけど、確実な信頼関係と少しのときめき、そして相手を思いやる気持ち。
これが必要なんだ。


私には足りなかったのかもしれない、順を思いやる気持ちが。