すると、背後から低い声が突然聞こえた。


「お取り込み中のところ、ちょっといい?」


まさか後ろに誰かいるなんて思いもしなかったから、「わぁっ!」と声を上げた。ここは病院だったと思い出して慌てて口を両手で塞ぐ。


振り返ると、さっきいなくなったはずの須和が戻ってきていた。


私たちの会話をどこから聞いていたかは分からないけど、イケメンのくだりはしっかり聞いていたに違いない。
若干だけど笑いをこらえた顔をしている。
それを見たらちょっとイラッとした。


「あ、あ、あんたねぇ!来てたんならもっと早く声かけなさいよ!」


ペットボトルのほうじ茶を2つ買ってきてくれたらしいヤツに牙を向けたら、コズも加勢してきた。


「そうよ!どうするのよ、私がイケメンのドクターに見初められたら!」

「はいはい」

「流すのやめてよね!」

「はいはい」


須和は全く相手にすることなく私とコズにほうじ茶を渡して、そしてコズになにやら紙を渡した。
中身は入院に必要なもののリストのようだ。


「印鑑って家のどこにあるの?あと、ここに書いてあるの以外に持ってきて欲しいものあれば言って」

「もー!なんで同じ家に住んでて分かんないのよ?三文判の印鑑はリビングのカウンターに置いてあるラックの一番上に入ってるから。持ってきて欲しいものは携帯の充電器と、寝室のサイドテーブルに置いてある日記帳と、暇つぶし用に吉本ばななの小説を何冊か本棚から持ってきて。それから……」

「………………忘れそうだから全部ラインして」

「もー!それなら最初からそうすれば良かったのに〜」


2人のやり取りを見て密かにクスクス笑ってしまった。
なんだ、私と順の会話とそう変わりない。
圧倒的に口数は須和の方が少ないけど、男ってやっぱりみんなそんなものなんだ。