ふとそういえば、と思い出した。
俺は再びこみ上げそうな笑いを押し殺して、そっとソファーから立ち上がった。
そしてさりげなく先ほどの木製のシェルフの前に立ち、写真立てのひとつを手に取る。
駅中にある全国チェーンのシュークリームを、大きな口で頬張る梢の後ろ姿に話しかけた。
「梢〜!」
元気よく名前を呼んだら、すぐさま彼女が振り向く。
同時にひとつの写真立てを、よく見えるように目の前に突き出した。
すると、一瞬にして梢の表情が一変した。
サッと笑顔が消えて、慌てたような顔に変わる。
「そ、そ、それは〜!!だ、ダメ!見ないで!!」
よっぽど焦っているのか、ソファーの下に引いたラグにつまづきながらこちらへ突進してくる梢。
彼女は覆いかぶさるようにして俺の手から写真立てを奪い取ろうと必死の様子だ。
「何言ってんだよ、こんないい写真もったいないじゃないの〜」
「優くん!怒るよ!!」
「へぇ〜、新婚旅行そういえば沖縄だもんね〜。沖縄と言えば海だもんねぇ〜。海と言えば水着だもんねぇ〜」
「柊平!あんたボーッとしてないで取り上げてよ!」
「白と青のボーダーのビキニがよく似合ってますなぁ〜。梢ったら案外貧乳なのね」
「………………絶交してやる」
案の定、梢はフラフラとした足取りで半泣き状態でソファーへ戻り、そしてクッションに顔を埋めた。
「そんなに他人に見られたくないならリビングに飾るなよ〜」
すでに会話に入るつもりは毛頭無いらしい柊平は、うんざりした顔でこちらを見ているだけだ。
その視線を感じながら、俺は想像通りのリアクションを見せてくれた梢の頭を撫でてやった。
ビシッと俺の手を振り払い、彼女は言い訳を始める。
「私だって出来ることなら水着なんて着たくなかったよ!だけどさ、どうしても……」
「うん。どうしても?」
「しゅ、柊平の水着を見たくて……」
「え?柊平?」
俺は即座に手に持っていた写真を再度確認した。
梢と柊平が綺麗な青い海をバッグに並んで立って写っている普通の写真。
痩せた体と貧乳が目立つ貧相な(梢、ごめん!)彼女に気を取られて気づかなかったのだ。細身のくせになかなかの筋肉質ないいカラダをしている柊平に。
さすが存在感が薄い男。写真でもうまく気配を消せるらしい。



