「へぇ〜、神田さんって足速いんだねぇ」


隣に座る彩が腕組みしながらつぶやいた。
携帯片手にチラ見なんてそんなことあたしには絶対に出来ない。


「ねぇ、彩。もっとちゃんと見てよ」

「見てるわよ〜、あんたの愛しのカレシ」

「え、えへへへへ」

「キモッ」


趣味がフットサルだと言う彼に頼んで、試合を見に来たのだ。
1人で応援に来るのも目立つし、あたし自身も手持ち無沙汰になりそうだったので地元民の彩を誘ったというわけである。


彼女には彼と付き合うことになったと一番に報告した。
サバサバしている彩ならば、憧れていた先輩とはいえ祝福してくれると信じていたから。
案の定、自分のことのように喜び、そして食事を奢ってくれた。


付き合うようになって3ヶ月。
特にケンカも無く、障害弊害も無く、文字通りのラブラブなあたしたち。
幸せです、はい。


フットサルコートを駆け回る彼は人一倍足が速く、そしてボールをコントロールするのが抜群に上手い。
素人のあたしから見てもかなり上級者であることはうかがえた。


「なんにせよ、良かったよね。神田さんと付き合えてさ。例の熊谷課長はデキ婚だもんね〜」


何気なく言った彩の言葉で、あたしの膨らんだ気持ちにストップがかかる。
そして曖昧に「うーん、そうだね」と答える。


そうなのだ。
あれだけ恋焦がれて盲目的に好きだった課長は、先日あたしの知らない人と籍を入れた。
社外の人らしいけれど、結婚のきっかけは彼女の妊娠。
彼らしいといえばらしい。


そのせいで泣き崩れた何人かの女子社員は、きっとあたしみたいに適当に遊ばれた人たちなんだろう。