数日後。
定時に仕事を終えたあたしは、神田さんの運転する車の助手席に座っていた。


最上さんが言っていた通り、神田さんにデートに誘われた。
それも当日のお昼に。突然の誘いだった。


デートなんて野暮な言い方は彼はしない。
1月14日に県内各地の神社で開催されるどんと祭というお祭りがあるらしく、それに誘われたのだ。
登米という市外の土地で冬の花火大会があるということで、一緒に見に行かないかと。
どんと祭に行くこと自体初めてだったし、冬なのに花火大会があるなんてロマンチックだと思った。


最上さんに言われたからじゃない。
キッカケにはなったけど、あたしは確かに自分の意思で神田さんの誘いを受けた。


スーツ姿のままで運転する彼の姿は、デスクワークばかりしているイメージしかないあたしにとってはなんとなくギャップがある。
目が合うと優しく微笑んでくれて、それだけで照れてしまう自分がいた。


「車内の温度、寒くない?逆に暑くない?」


と、細やかな気遣いをしてくれるところが彼らしくて、笑みがこぼれる。


「大丈夫です。ちょうどいいです」

「良かった。こうしてほしいってことがあったらすぐに言ってね」

「はい!ありがとうございます」


熊谷課長に色々言ってくれたことについても、お礼を言おうかどうか迷った。


━━━━━でも。


きっと、言わない方がいい。
知らない振りをしていた方がいい。
お礼を言われたくてやったんじゃないって分かるから。


だからこそ、嬉しかった。