からっぽになったあたしを満たすもの。
そんなのはどこにも無い。


あたしはただただ、自分がしてしまったミスを挽回すべく仕事に打ち込むしか無かった。
それしか道は無かった。


「本当かどうか分かんないけど、あの熊谷課長と受付の1年目の東山って子が付き合ってるらしいよ。ほら、あそこにいる髪の長い子!」

「え、そうなの?私の聞いた話じゃ東山さんの一方的な片想いだったらしいよ、それでこっぴどく課長に振られたって」

「そもそも課長と釣り合うわけないんだから、身の程をわきまえなさいよって感じよね」


女子更衣室での噂話は、これみよがしに聞こえるようにされてしまうから辛い。
広い広い更衣室なのにあたしの耳はそれらをキャッチして、その度にズキンと胸が痛む。


課長に切り捨てられたあの時、事務所にいた社員はそんなにいなかった。
だけど誰が見たのか話したのか、社内に適当な噂が流れたのは事実。
あたしは何も聞こえないふりをして、いつも通りに笑顔を作った。


噂なんて相手にしなければいつかは消える。
そんなのを気にしている暇があったら仕事しなくちゃ。


あたしを奮い立たせてくれた、神田さんの「君の笑顔が好きなんだよ」っていうあの言葉を信じて━━━━━。


また次の恋を始めたいなんて思ってない。
あたしはこれまでのあたしを消すんじゃなくて、認めながら生きていこうって決めた。
こんなあたしでもまっすぐに想ってくれる人がいるなんて幸せなことはない。


神田さんとは恋愛しちゃダメ。
あたしとあの人は違うんだから。
あの人にはもっとお似合いの人がいるはずなんだから。


でも立ち直らせてくれる言葉をくれたことは本当にありがたくて、どんなに辛くても笑顔でいれば頑張れるって思わせてくれた。


あたしは、まだまだやれる。
1人でやっていける。