神田蓮さんは確かこの会社に入って4年だったかな。
華やかな営業課はイケメン揃いで、入社した当初はそちらにばかり目がいっていたけれど。
彼はそれらに紛れてはいるものの中性的な顔立ちで、可愛いという表現がピッタリの整った容姿をしていた。


それに、いつもギリギリに出社してくる彩は知らないと思うけど、神田さんは誰よりも早く会社にやって来てみんなのデスクを綺麗に拭いたり、ゴミ箱に溜まったゴミを捨てたり、床に染みついたコーヒーの跡を消したりしている。
あたしも朝のお茶出しのために早めに出社しているから、彼にはこっそりコーヒーを淹れてあげていた。


なんで神田さんが雑用みたいなことをするのか聞いたら、「以前遅刻しちゃったから、自分なりのペナルティなんだ」と苦笑いしていた。
そうとは思えないほど、嫌な顔せずにやっているなぁと感心した。


そうしているうちに、受付で難癖つけてくる厄介なお客様がきた時に困っていたら、するすると神田さんが来てくれて助けてくれたり、時々取ることがある外線電話の対応を誰かに相談しようとしたら先読みしてアドバイスをくれたり、後輩を気遣ってくれるのが伝わってきた。


それまではナヨナヨしているイメージがあり男らしさも感じられないし、どちらかと言うとガッシリした体格が好みのあたしには対象外の細い体なので、だからデスクワークが中心の事務課に配属されたなんだなと思っていたのだけれど。
その細やかな気配りとか、さりげない優しさはすごい。
誰も見ていないところで出来る人っていいなぁ、と。


「神田さんのあの可愛い笑顔と優しい性格が超タイプなんだよね〜!だんだんかっこよく見えてくるって言うか〜……」


彼女の止まらない話に耳を傾けながら、ふんふんと相槌をうった。大した興味も持たずに、淡々と。
今のあたしにはそれよりも課長の恋人の方が気がかりだった。


あたしは神田さんのことは、見た目うんぬんとかじゃなくて頼れる先輩としか見ていなかった。


━━━━━彼に、告白されるまでは。