「ねぇ、美穂。聞いた?課長の噂」


熊谷課長との関係が続いて数ヶ月が経っていた。
そんなある日、同期で一緒に受付に座る門馬彩から声をかけられた。


「噂?」

「総務課企画部の濱本さんと付き合ってるらしいよ〜」


彩の話にズンと心が沈んでいくのが分かった。
まただ━━━━━。
あたしはそう思った。


彼女とあたしはこんな風に仕事が暇な時に話もするし、別に仲が悪いわけではない。
ただ、仲がいいわけでもない。
仕事で同期というだけで、他には何の接点もないというだけのこと。
ウマが合わないだけ。


「それって誰から聞いたの?」

「ふふ、総務課に同期の工藤いるじゃない?あいつに聞いたの〜。濱本さんがポロッと暴露しちゃったんだって」

「ふーん、そっかぁ」


笑顔で話を聞きながらも、あたしが課長とそういう関係になっているなんて彩はきっと夢にも思っていないんだろう。
「濱本さんみたいな美人なら納得よね〜」とはしゃいでいる。


そっか、濱本さんが本命の恋人なのか……。
総務課に行った時に優しく対応してくれる、確か5年目か6年目の先輩だ。
よりによって恋人も社内にいるなんて、あたしの立場が無いじゃない。
いや、違う。
あたしには立場なんて元から無かったんだ。
期待したって無駄。自分から望んだことだ。


憂うつな気持ちでぼんやりしていたら、彩が軽い口調でつぶやいた。


「私は課長みたいなひと回り以上年上はパス。話とか絶対合わないもん」

「そうなんだ。彩はどんな人がタイプなの?」

「断然、事務課の神田さん!」

「神田さんか……」


私はチラリと話題の主でもある神田さんを見るために、事務所を振り返って事務課のデスクが並んでいるスペースを振り返る。
山のような書類に埋もれてみんな仕事をしていて、その中に神田さんもいた。