━━━━━甘くて痛くてめまいがした。


中高一貫の女子校に通い、専門学校も女子校。
異性との出会いの場などどこにも無くて、あたしは同性の友達と友情を育んでいた。
だから男の人と抱き合うことがどんなものなのか知らなかった。


それは未知の世界。


ホテルの一室で静かに抱き合う。
抱き合って熱いキスから始まり、触れ合って撫でられて、強い力で惹きつけられる。
中毒性のある甘い感覚と、鈍い痛みが体に刻み込まれた。


あたしが処女ってことを課長に伝えたら、最初は少しビックリしていたけど「じゃあ手加減するよ」と笑っていた。
本気だったらどれだけ甘くて激しいんだろうか。
とにもかくにも、状況についていくのに精一杯のあたしには想像もつかない。


「私…………、幸せです」


抱き合いながらそう伝えると、課長はフッと微笑んだ。
あとから考えるとあたしをバカにしていたのかもしれない。
けれどその時だけは愛のある微笑みだと信じていた。







別に彼女じゃなくたって、愛してくれる。
別に彼女じゃなくたって、笑いかけてくれる。
別に彼女じゃなくたって、彼を独り占めできる。
別に彼女じゃなくたって、好きだと言ってくれる。
別に彼女じゃなくたって、抱きしめてくれる。


あなたが少しでもあたしのことを思い出してくれて、頭の片隅に置いてくれて、時々連絡をしてくれるだけで良かった。
時々抱いてくれるだけで良かった。


自分でも分かってる。
なんて都合のいい女。


でもそんなのどうだっていい。
陰から見ているだけの日々よりはよっぽどマシで、意味のあることのように思っていた。
あたしは自分のしていることが、おかしなことだなんて思いもしていなかったのだ。









━━━━━課長の素顔と、あの人の誠実な想いを知るまでは。