「どこがいいんだ、あんなアパート。」

「あんな、って。居心地がいいんです

「どこが。」


この前来たとき、散々寛いでたくせに。

私の住むあのボロいアパートをよく思っていない社長は、ことあるごとにこの質問を繰り返す。


「そんなに嫌か。」


実は現在、社長から同棲を迫られている。
まあ、迫られてるってほどでもないけど。


まだそういう関係になって一ヶ月とちょっと。

同棲するには、早すぎる。
社長も多分、そう思っている。

ただ、あのセキュリティなんて求めるほうが可笑しいようなあのアパートに住んで欲しくないんだろうな。

それは、わかってる。わかってるんだけど。


「なんか幸せ過ぎて怖いというか。」


これが最大の理由。


「最近自動ドアもきちんと開くし、今日なんて会社に来る時、信号全部青だったんです。」

「…それは、恐ろしいな。」


運転しながら神妙な声を出す社長の横顔は、本気でひきつっている。


失礼だな、と思いつつこういうやり取りが楽しくて幸せを感じてしまう自分がいて。



神様、どうか。


どうか、このままこの人との隣で一緒に幸せを感じていけますように。