「そう言えば、なんで社長は迎えに来てくれたんですか?」

「思い出したのか?」

「なんとなく。」

「じゃあ、タクシーの中での会話は覚えてるか?」


社長はそう問うと、ベッドの脇に腰掛けた。
そして私は上半身を起こし、記憶を探る。


「えーっと、社長が私のアパートを馬鹿にして、」

「馬鹿にはしてないが。それで?」

「奈々さんの話をして…。」

「それから?」

「覚えてないです。」

それまでのことは、ふんわりと覚えているがタクシーを降りてからはまるで覚えない。


「これを見ろ。」


そういうと、社長は自分が着ている薄手のニットの袖を上げ、腕を私の目の前に差し出した。