口調も、今まで会った時の丁寧な口調とはまるで違い、少しチャラいイメージさえ感じる。
そんな彼の会話に耳を済まそうと必死に目を閉じた、その時。
「お前、もっかい北海道転勤しちまえ」
「あはは、今ならいつでもウェルカム、北海道転勤!」
すれ違いざまに聞こえた〝北海道転勤〟という言葉と、聞き覚えのある〝いつでもウェルカム〟という明るい声。
私は、それを聞き逃さなかった。
互いに互いの横を通り過ぎた後、ピタリと足を止めて立ち止まり、振り返る。すると、偶然かそれとも必然か……彼も同時に私の方を振り返った。
振り返りニコリと微笑んだ彼に、私はまさかと思った。その瞬間、もう彼しか見えなくなっていて、私は真っ直ぐ彼に近づいた。
「どうも、おひさしぶりです。今日も暑い中ご足労いただきありがとうございます」
「はい……あの」
「何でしょう?」
他人行儀で堅苦しい、彼の敬語。
さっきの彼の会話を聞いた後だと、こんなの、ただの仮面にしか思えない。まるで、何かを必死に隠しているような……そんな気がした。
「あの、教えてください。貴方の名前」
「名前、ですか?」
彼の笑顔が一瞬、引きつった。
でも、またすぐに笑顔に戻った。あれ、もしかして、私の勘違い? そう思ってしまう程、すぐに表情が切り替わった。

