「唯川さん、こっちですよ」
「えっ。あ、うん」
「どうしたんですか? 最近ここに来る度キョロキョロして」
「え……そう? そんな事ないよ?」
ポーカーフェイスで、平静と誤魔化した。意外と三浦くんって鋭いんだなぁ。
三浦くんの言うとおり、私は、このJEC本部へ来るたびにキョロキョロと誰かを探す癖がついてしまっている。
その誰かというのは、あの茶髪の男性の事。
別に、何か特別な感情があるとか、一目惚れだとか、そういう訳では無いけれど……何故か、何となく気になるのだ。
「そうですか? それなら良かった。それにしても今日も緊張しましたね。何度来ても慣れないです」
はは、と笑う三浦くんに私も「そうだね」と言って笑う。
本当に三浦くんの言うとおり、この会社には何度来ても慣れない。あの小さな会社に慣れてしまっている私達には、どうしても緊張がついてきてしまうのだ。
「唯川さん」
「ん? 何?」
三浦くんの方に顔を向けて返事をした。すると、三浦くんが言いづらそうに口をモゴモゴとさせる。
「えっと、あの……今日、この後時間ありますか?」

