名前を聞こうとしたけれど、エレベーターの音とアナウンスで掻き消される。 「あとは、真っ直ぐ進んでいただければ出口に着くと思います」 「え、あ……はい」 「歩き、ですよね? 気をつけて帰ってくださいね」 最近物騒ですから、とまた笑った男性に私は少しの違和感を覚える。 それから、さっきの『名前は…』という私の質問は、やはり聞こえていなかったのかが気になった。 でも私は「はい、ありがとうございます」とお辞儀をするとコツコツとヒールの音を鳴らしてJEC本部を後にした───。