Polaris


うろうろ、うろうろ、と彷徨い続けること約五分。

私のそばを通り過ぎて行く社員さん達は、皆見て見ぬフリか、もしくは私を変な人だと思っているのか、目が合っても声はかけてこない。

このまま歩き回り続ける訳にもいかないし、また応接室に戻るのも何だか恥ずかしい。

ああ、これはもう自ら名乗って、迷ったと助けを求めるしかないか。そう決心した……その時。


「もしかして、迷っちゃいました?」


私の背後から、そう声がかかった。


「お恥ずかしながら……って、あ」

「広いですもんね、ここ。もし良かったら、僕が出口までご案内しますよ」

「え、あ……はい。それじゃあ、お願いします」


振り向くと、そこにいたのは初めてここへ来た時にぶつかってしまった茶髪の男性。

私はつい『あ』と声が出てしまったけれど、この男性は覚えていないのかノーリアクション。そして、何も言わずにそのまま歩き出してしまった。