────カタカタ、カタ。
「はぁ」
残業開始から30分。
集中して、無心になって、なんて思うだけ無駄なことにやっと気づく私。
〝集中しよう〟〝無心になろう〟と考えれば考えるほど、集中はできないし、無心になんてなれない。
集中しよう、無心になろう。
そう思うこと自体が、集中させない行為、無心にならない行為であることに気がついたのだ。
「はは」
つい、笑ってしまった。
何やってんだろう私。こんな事してどうしたんだろう。そう思うと不思議と笑えてきた。
これじゃあ何のために残業してるんだか分からないじゃない。結局、ここにいたってまた無限ループにハマってしまうんだもん。
ぐっと身体を伸ばし、背もたれに上半身を預ける。
完全にリラックスした状態の私だけがいるオフィス。そんなオフィスの扉が、何故か突然ガチャンと音を立てて開いた。
「……あ、まだいらっしゃったんですね。唯川さん」
「あ、三浦くん」
音のしたドアの方へ顔を向けると、そこにいたのは私より3年後輩で24歳の三浦光輝(ミウラ コウキ) くん。彼は、この出版社の営業部に所属している。

