「……もう、知らない」
私はベッドの上で寝返りをうち、手のひらにあるスマートフォンを放り投げた。
私の手から離れたスマートフォンはベッドの上を一度バウンドし、それから私のベッドと詩織の寝ているベッドの隙間へと音を立てて落ちていった。
ガタンというスマートフォンの音に身体を反応させた詩織が起き上がり、私の方を見た。
「ビックリした」
落ちたよ、と詩織が私のスマートフォンを拾い上げて差し出してくる。私はとりあえず「ありがとう」と言ってそれを受け取ったけれど、すぐに枕元に伏せて置いた。
すると、私を見たままでいる詩織から鋭い一言が飛んできた。
「京子、旅行先に決めたのって、誰かに会いに来たんだよね? もしそうなら、私に気遣わなくていいんだからね? 会えるなら会いに行ってきな」
少し複雑な詩織の表情からは、何を考えているのか大体分かる。
きっと、自分が一緒にいることで私が会いたい人に会えずにいるんだと思ったに違いない。
「……ううん。違うよ」
「え?」
「詩織がいるから会いに行かないとか、そういう事じゃない。詩織がそんな表情する事ないよ」
「京子……」
少し安心そうな顔をした詩織に、私は何となく、言うなら今かなと思った。
深呼吸をして、自分自身を落ち着かせる。そして、ゆっくりと口を開いた。
「私ね、前に詩織が教えてくれたサイトである人に出会ったの。最初の印象は最悪だったし、サイトの中だけの仲だと思ってやり取りしてたんだけど……」
私は、詩織に思っている事を全部話した。全部、全部。 それはもう、私の心の片隅にあることまで全て。

