「やっぱり……そっか。なんか、そんな気がしたんだよね」
〝そんな気がした〟という言葉には、どんな意味があるのか。真意が分かるわけではないけれど、少しだけ、気持ちが浮いてしまった。
「だけど……ごめん。俺は、キミのことを覚えてない」
少しだけ浮いた気持ちが、また、沈んでいく。覚えていないことは、もちろん分かっていた。それは『どなたですか?』と言われた時から。
だけど、そんなにストレートに『キミのことを覚えてない』と本人の口から言われると、やっぱり胸に深く突き刺さってくる。
「それじゃあ、さっき、突然泣いたのも……俺が原因だね」
悲しくて、切なくて、どうしようもなく泣きそうな顔になる樹。私だって、力を抜けばまた泣いてしまいそうだった。
だけど、私は、こういう時が来ることを知らなかった訳じゃない。
覚悟する時間は、たくさんあった。いつだって……毎日、毎日、この時のことを考えながら過ごしていた。
覚悟していたって、想像以上にキツくて苦しい現実。
それでも、私はこの壁を乗り越えなければいけない。
どれだけ苦しくたって、また、樹に私のことを好きになってもらいたい。

