Polaris




────1年後。


新たに発症しかけていた合併症の恐れも一旦なくなり、もう少しで退院することができそうだと先生に言われた頃。

合併症を免れた樹だったけれど、認知症自体の進行は早かった。

物忘れは激しくなり、時々、自分が今どこにいるのかも分からなくなる。そして、突然大きな声を出すこともあった。

毎日、毎日、常に病室に入る前のような緊張感と不安に包まれながら過ごしている。

あまりにも病気が進行してきてしまったため、私は仕事をあがる時間も早くしてもらえるように頼み込み、今日も12時であがった。


エレベーターを上がり、廊下を歩く。そして、またいつものように病室の前で深呼吸をした。


「きたよー」


笑顔を作り、軽いステップで部屋に一歩を踏み出した。

窓の方を見て寝転んでいる樹に向かって歩いていく。すると、足音に反応したのかもぞもぞと動き出した。

そして、彼がこちらの方に寝返った。