「今日は、仕事どうだった?」

「うーん。まあまあかなぁ。でも、相変わらず楽しくやってるよ」

「そっか、それなら良かった」


安心したように笑い、ゆっくりと私の手まで自分の左手を持ってきた樹。少しだけ震えている樹の手が、私の左手を包んだ。


「もし……もし、さ」

「なに?」

「いいな、って思う人がいたら……全然そっちに行ってもいいんだからね。キョンキョン美人だから、きっと、新しい職場でも誰かに言い寄られてるでしょ?」


いつもみたいに、ふざけた感じで笑っているけれど、目は真剣だった。

きっと、自分の側にいるよりも、良い人がいるなら普通の健康な人の側にいた方がいい。そんな事を彼は思っているに違いない。


「……やめてよ。何言ってんの。私は樹が良くて樹に決めたの。あんた以上の人なんている訳ない。バカ」


もう、本当に泣きそうだった。だけど、それ以上にそんな事を言ってくる樹に腹が立った。

私は、樹を選んだ事を後悔したことなんて一度もない。寧ろ、彼と一緒に過ごせていることに幸せを感じている。


「そりゃあ、不安なこととか、悲しいこととか、たくさんあるよ。だけど、そんなの何処のカップルにだってある事でしょう? それに、他の人のところに行って私が幸せになれば良い、なんて考えてるなら言っておくけど……私の事を幸せに出来るのは、樹しかいないんだから。私は、樹が隣にいてくれればそれだけでいいんだから」