「もう、ここには戻らないの?」
「……分からない」
「そう」
「……うん。まぁ、もし、仮に戻ってきてもキョンキョンには言わないし、もう会うこともないよ」
────ズキン。
樹の言葉にキツく、強く、胸が締め付けられる。胸がすごく痛い。
辛くて、痛くて、哀しくて、もどかしい。だけど、樹の表情の裏側が見えないのが……見ようとしてはいけないのが、すごく苦しい。
「……樹」
「なに?」
「……ううん。何もない」
「……そっか」
ひとつ、線を引くようにして。
一定の距離感を保てるように、言葉を選んで放つ。そして、その一線の向こう側には決して踏み込まない。踏み込めない、私達。
そうしていないと、気持ちが溢れ出してしまいそうだった。そうし続けないと私は……きっと、三浦くんのもとへ帰れなくなってしまうから。それなのに。
「……ねえ。キョンキョン」
彼は、そう、愛しそうに私を見て、恋しそうに私の名を呼んだ。
────そして。
「酷いこと言うけど、最後だから許して。………好きだったよ。本当に」
過去形にして誤魔化した、とても不器用な愛を私へ捧いだ。

