Polaris



少しだけ歩き、会社の駐輪場のような場所で私達は向かい合って立った。


「話って?」

「えっと……」

「あのイケメンくんと付き合うことになったよ、って話?」

「え……?」


見上げて見えた樹の表情は、微かに笑っている。それなのに、苦しさと哀しさが見え隠れしているように見えた。


「……橋本に聞いた。別にそんなこと、こうして報告してくれなくてもいいのに」


樹の言った〝橋本〟というのは、恐らくあの眼鏡の男性の事だろう。橋本さんに聞いたからわざわざこうして報告しに来なくてもいいと、そう言いたいのだろう。


「……そうじゃないよ」

「え?」

「確かに、三浦くんとは付き合ってる。だけど……そう言いに来たわけじゃないよ」


深呼吸を、ひとつ。ふたつ。

緊張からくる心の弾みを落ち着けて、私は再び口を開いた。


「……転勤、するの?」


私の一言に、樹の瞳がぐらりと揺れた。

そして、その後視線を落として「橋本か」と言うとくすりと笑った。


「うん。するよ。来たばっかだし、本当はもう少しここにいるつもりだったけど、色々あってね。……まぁ、ここ転勤多いから珍しい事じゃないんだけど」


樹の瞳は、ずっと揺れ続けていた。

きっと……いや、絶対に何かあるはずだと直感的に思った。