三浦くんが、切なそうに笑っている。
笑っているはずなのに、今にも泣いてしまいそうな……壊れてしまいそうな、そんな表情をしている。
三浦くんにこんな表情をさせているのは、紛れもなく、樹の事をどうしても振り切れない私だ。
「ちゃんと、会って話してきてください。どんな話でもいいです。転勤のことを詳しく聞いてもいいです。他愛のない会話でもいいです」
「三浦くん……」
「後悔しないように青柳さんを見送って……また、僕のところに帰ってきてください。お願いします、京子さん」
三浦くんはそう言ってから私の手を優しく、そして、強く握った。彼の手は微かに震えている。
私が、樹への想いを振り切れていない事を知っていて、未だ樹に一目会いたいと思ってしまっていたことを知っていて、会いたいと私が言わないのは自分のせいなんだと思ってしまっている。
それでも、こんな私に戻ってきて欲しいと願ってくれる。そして、こんなにも大切に思ってくれている。
この三浦くんの願いを、ダメな彼女である私は、三浦くんの手をぎゅっと握り返すことで受け入れた。
だって、ちゃんと後悔することなく樹とお別れをして、ここに戻ってくることが三浦くんを安心させてあげられる一番の方法だと思ったから。

