「.…あ、青柳の」


三浦くんと楽しい夕食の時間を過ごし、これから帰ろうと思っていたところだった。

私たちの出たお店のすぐ側で、私は、なんだか少しだけ見覚えのある人に会った。

誰だったかと考える前に出てきた〝青柳〟という樹の名字。

ある意味で今一番聞きたくなかった名前を出してきた、眼鏡をかけたスーツ姿の男性。彼は、恐らく樹とよく一緒にいたJECの社員さんだ。


「こんばんは。偶然ですね」

「はい。そうですね。えっと、今日は……お二人さん、プライベートですか?」

「はい。一応」


樹と仲が良かったのか、あらゆる時に樹の横にいた人。私は、彼のプライベートなのかという問いに正直に頷いて答えた。

早くこの場を去りたい。正直、今は樹に関係する人とは誰とも会いたくなかった。樹のことを、思い出したくなかった。

一度ちゃんと思い出すと、どんどん私の頭の中を占領していくかのようにいっぱいにしていく樹。

これだから、私は彼の事を考えたくなかった。名前を聞いただけでも、もう、こんなに頭が彼でいっぱいになってしまうんだから。