今日の訪問を境に、JEC本部への訪問はなくなってしまう。

……ということは、つまり、私は今日を境に樹と会えなくなってしまうということを指していた。



「……ああ、もう」


悔しいけれど、やっぱり樹でいっぱいになってしまう私の頭の中。

今も私は間違いなく樹のことを好きで、それから、誰よりも特別。その事実が紛れも無いものだと現実に突きつけられた私は、その想いをどうにかして振り切ろうと考えながら会社に出社し、会社での時間を過ごしていた。



「唯川、今日溜息ばっかりつくな」

「わ、宇野さん……すいません」


ほぼ無意識的に吐いていた溜息。それを斜め後ろにいた宇野さんに聞かれていたらしく、私は頭を下げた。


「別に謝らなくていいけど、他社訪問してそれは無しだぞ?」

「はい、それは大丈夫です。多分……」

「多分って何だ。多分って」

「多分は多分、です」


私の返事に宇野さんがクスクスと笑う。

宇野さんの言うとおり、これから私達の行く先、JEC本部でこんな風に溜息をつくわけにはいかない。

大手企業であるJECとコラボさせてもらってる以上、変で失礼なイメージは与えさせてはならない。……いや、大手企業でなくても他社で溜息をつくなんてこと自体があり得ないけれど、何が何でもそんな事はないようにしないと。