「今日は唯川さ……じゃなくて、京子さんもJEC訪問ですよね」
「う、うん。そうそう。昨日は行けなかったけど、今日は企画部側で動くよ」
〝京子さん〟呼びに気を取られ、なんだか少し微妙なリアクションになってしまったような気がした。
下の名前で呼ばれる事なんて殆どない私にとって、この三浦くんの京子さん呼びは新鮮で、とても緊張した。
……というか、三浦くん、私の下の名前知ってたんだ!という驚きも大きかった。
「今日の訪問を境に、しばらくは訪問の予定がないみたいですね」
「そうなの?」
「はい、確か……」
「まあ、でも、もうすぐ商品も発売されるもんね。それに私達、訪問しすぎってくらいに訪問したしね」
「そうですね。それから、いっぱい迷いましたよね」
はは、と笑った三浦くん。その三浦くんのひとことに私もつられて笑うけれど、どうもうまく笑えないのは、隅っこに樹の顔が浮かんでいるから。
樹に案内してもらったことや、会議室の前で樹が待っていてくれたこと、そんな事ばかりが頭に浮かぶからだった。

