本当なら今日もJEC本部へと足を運ぶ予定だったけれど、それは急遽無しになった。
発売目前の小規模なミーティングに参加する予定だったけれど、三浦くんや宇野さんが参加してくれるため私が抜けても何とかなるような案件で良かった。
こんなの本当なら芹沢さんと今井さんにガツンと言ってやりたいなと思うところだが、なんとなく樹には会いづらかったし、ちょうど良かったかもしれない。なんて思っている自分もいた。
樹に会わずに済むことに安心と、それから少しの残念な気持ち。なんだか複雑に混じり合った感情を抱いている私の背後から、声がかかった。
「……あ、唯川さんが帰ってきてる」
「え? あ、宮部さん」
「おかえり」
「あ、えっと、ただいま……です」
振り返った私の目の前に立っている、少し柔らかい雰囲気を持つ黒髪の男性。彼は、上司である宮部望(ミヤベ ノゾミ)さんだ。
宮部さんは唯一他の男性社員とは違い、今井さんや芹沢さんに媚びないタイプ。かといって、私の味方でもないけれど……まぁ、自分は自分、他人は他人。争いごとは好まない。そんなタイプに見える。

