だって、今の言葉が聞こえていたって、私と樹は結ばれない運命なんでしょう?
それなら、そんな言葉は苦しくなるだけだ。聞こえないフリをする以外に選択肢なんてない。
イツキは、優しすぎる。時々、悲しくなるくらいにひどく優しくする。
だけど、今、そんな優しさを貰ったって気持ちが大きくなるだけ。気持ちを、止められなくなるだけ。
それなのに声に出して言うなんて、樹はどうしてそんなに残酷なの。
どうして、そんなに残酷な優しさをくれるの。
「……いいよ」
「え?」
「送らなくていいから。私、ひとりで帰れる」
「え、キョンキョン……‼︎」
私は消しきれない自分の想いを振り切るように、風にのせてこの気持ちが消えて去っていくように、樹へ背を向けて歩き出した。
早く、忘れたい。
早く、全部無くしたい。
早く、こんな気持ちは無かった事にしたい。
こんな苦しいだけの想い、早く消えて無くなってしまえ───。

