樹に手を引かれて歩いていくと、自分ひとりでは何十分経ってもたどり着けない出口に、ものの数分で辿り着いた。
どこまで私は方向音痴なのか、と、ここでもまた改めて思い知らされた。
「……ちょっと、樹?」
出口を出て、止まるかと思いきやまたもや足を進める樹。私はぐっと足に力を入れて立ち止まった。
「ん?なに? 帰らないの?」
不思議そうにこちらを振り返った樹は、目を丸くして首を傾げた。
『帰らないの?』って……。
「帰るけど……樹は、戻らないといけないんじゃないの?」
っていうか、普通戻るとこでしょ。だって、もう目的地には着いたのに。
「え? 送る、ってキョンキョンの家まで送るって意味なんだけど」
「え? いっ……家まで⁉︎」
「あ……いや、流石に家にあがるつもりとかは無いから!そういうわけじゃなくて」
心配だから勝手に送りたいだけだよ、と小さく呟いた樹の声。
それがちゃんと私には届いていた。だけど、私はそれを聞こえなかったことにした。

