だとすれば、あの声は────。


「ねぇ、三浦くん」

「はい」

「私が転倒した時、いちばん最初に私の元に駆け寄って来たのって……誰?」

「え? 青柳さんじゃないですか? だって、病院に電話したのも青柳さんですし……」


やっぱり。絶対にそうだ。今度こそ、人違いなんかじゃない。

青柳サトシと名乗り、何かを隠そうと仮面を被っていた彼。時折、他人とは思えないような表情で私の側にいた彼。

あれは……他の誰でもない。紛れもなく〝イツキ〟なんだ。


「私、行かなくちゃ」

「え⁉︎ ちょっ、唯川さん……⁉︎」


地面を踏みしめるたび、捻った足首と足の打撲が痛む。だけど、私はそれをグッと堪えて走り出した。

痛い。間違いなく痛い。だけど、それ以上に一秒でも早くイツキの元へ向かいたい一心だった。


「……あっ!す、すみません!」


私は病院の前でタクシーを呼び止め、急いでそれに乗り込んだ。


「株式会社JECまでお願いします」

「あー、はい。分かりましたー」

「お願いします」


タクシーの運転手さんは「了解」と呟くように言うと、車を走らせJECへと向かう。

見慣れた街並みを眺めながら、今か今かと待ちわびている私はまるで子供のよう。

本当に素直に嬉しくて、素直に、彼に早く会いたいと思った。