「あれ?こちらのお嬢さんは?」


その財前社長とやらは私の方を見て、そう言った。


「あぁ、こちらは俺の婚約者です」


サラッと本当に桐谷は私のことを婚約者なんて言いのけた。


一気に緊張が走る。


「あ、桜庭結衣子と申します」


少し声が震えてしまった。

こんな見掛け倒しな私、すぐバレてしまうのではって思う。


しかし、反応は意外なもので。


「そうなんだ。いや〜、残念だよ。今日は私の娘も連れてきていてよかったら君にどうかと思っていたんだけどね」


「そうなんですか。それは残念です。もし、出会う順番が違っていればお嬢さんに恋に落ちていたかもしれませんね」


そう言って爽やかに笑う桐谷。


それを見ているとどうしても鳥肌が立ってしまって抑えることができない……


何?コイツのいつも違う、礼儀正しさというか…仮面を被っている感じ?