「何でもない」
いつもより冷たく言い放ち、着物に手をかける。
別に……怒ってるわけじゃない…。ただ…胸がむしゃくしゃ
してる…だけだ。
ーフワッ。
「……………え?…」
突然に、背中に感じる温もりと、仄かに香る香水の匂い。どうやらあたしは、後ろから優に抱きしめられているようだ。
「……着物……。着れないんでしょ?」
耳元で甘く囁くこの声は、紛れも無く優のものだ。優は着物に手にかけた。
「着物の選択は合格だよ。これは夏季用に用いられる基本となる着物で、阿波しじらと呼ばれているんだ」
そう言って優は、着物の紐を結ぶ。


