「では、菜智さん。よろしく頼んだよ」
そう言って、上機嫌に繁信は部屋を出ていく。
「菜智様、ドレスはどれに……」
「適当に選んどいて下さい。しばらく庭へ出ます」
「えっ、菜智さ……」
バタンッ
メイドの声を無視して、あたしは庭へと出る。そして、幾へ電話をかけた。
プルルル、ピッ
「よう、姫さん!元気してたかいな!?」
「まずい、幾。婚約パーティ、明日になった」
あたしは周りに気を配りながら、小声でそう伝える。
「ほんまかい、まずったな。明日までに準備せなあかんっちゅう事やな…」
幾の声にも、不安が混じっている。
警察でも、母親と父親が今動いてるはず。それを中継してるのが、幾だ。
「繁信、また何かやらかしたんだろ。何か、急いでるみたいだった」
「そうやろな。しゃあない、死ぬ気で何とかしてみるわ!」
「幾、頼んだ……」
そう言って、あたしは携帯を切った。
「優………」
本当に、霧夜と婚約したら、優、怒るか?仮りでも、絶対に見せたくない。
優、元気にしてるか??
「会いたい……」
会いたいんだ、優……。
少し、ほんの少したけ泣きそうになった。それを堪えて、あたしは空を仰ぐのだった。