「い?いやぁ、俺の方こそ…」

 熊野は、照れ臭そうに頭を掻いた。

「あの後色々考えたんだ。
 俺、アイツだけには負けたくないって、会社入ってからずっと思ってて。
 途中から、君を通してアイツと張り合うのが目的みたいになってた気がしてさ」

「ハハハ…、それはそれで少しショックな気がします」
 苦笑いの燈子に、熊野は慌ててフォローした。

「あ、誤解しないで。
 君が好きだった気持ちは本当さ、嘘じゃない。
 そもそも、最初に好きだって言ってたのは俺の方だったんだぜ?短い間だったけど、付き合えて嬉しかった。

 ただ…気持ちの強さでいったら、やっぱりアイツに負けてた気がしてな…

 ま、君が幸せならそれでいいさ」

 少し寂しげに、熊野は笑った。
   

「く…」
 お酒が入っている燈子の涙腺は弱い。

「くまの…さぁんっ!」
「わっ!ち、ちょっと…トーコちゃんっ」

 さらに抱き付き癖まである。

「こ、困ったな……」

 戸惑いつつも、熊野は胸に顔を埋めて、肩を震わせる燈子の背に手を回しかけた。



「クラァ熊野ぉ!
 テメエ何やってんだコラ」

 浴びるように杯を受け、性質の悪い酔っ払いと化した大神秋人が、二人の間に割り入った。

「離れろっ」
 
 凄い勢いで二人を引き剥がした大神は、燈子を自分の側に肩を寄せた。


「どうだ、いいだろう、熊野。俺ら、明日から同棲、5月には結婚式だ」
 
 (大人気ない…)

 (大人気ない…)

二人は、呆れて目を見合わせる。

 

「お前な、一体誰のお陰で…」