「ええ、そうなんですよ、まだ全然実感なくて」
「ほほほ、そうは言ってもあなたたち。明日から一緒に住むんでしょう」
燈子は皆の冷やかしを避けるため、カクテルを片手に水野女史と隅っこで話し込んでいた。
「二人っきりになるのが、イキナリ新居だなんて、何かと不安なんですけど」
「そう?
にしてもアナタ逹、なかなか愉快だったわ。特にあのクソ生意気だった大神くんが、慌てふためく様はねえ」
「そうですかあ?とても慌ててるようには、見えなかったですけど…」
「あら、分かる人にはね、分かるのよ」
普段は滅多に飲み会に来ない水野さん。
ほんのりくすっと可笑しそうに笑った水野さんは、
「思い出すワ。
熊野くんと一緒に彼が配属されて来たときは、殺意が沸いたもんだった」
「…分かるような気がします」
「アラ?噂をすれば…」
「やあ、トーコちゃん」
「熊野さん…」
水野女史は、察したらしく、そっと席を外した。
「…なんて言ったらいいか…スミマセンっ」
燈子は、しんみりと俯いた。
あれ以来、出張の関係もあって、彼にまともに謝れてはいなかった。
大神は多くを語らなかったが、ちらっと二人の間の出来事を話してくれたことがある。