彼は、その指に軽く口づけすると、燈子の目を見てうん、と頷く。

 驚きすぎて声も出ない燈子が、なされるがままにそれを見ていると、彼はそのまま、自分の小指を燈子の小指に絡めた。

「絶対、な?」
 
 ユビキリで念押しする彼に、燈子はやっとのことで返事した。

「はい」

 指を切ると、彼はやっと燈子から離れた。

「始業5分前だ。
 俺は課に戻るけど……一緒に行くか?」

 燈子はぎこちなく首を振った。

「そ、その…もう少し、余韻に浸って…いたいデス…」

 大神は嬉しそうに微笑んだ。

「そうか、じゃあ先に戻る。…遅れるなよ」

 

 大神が去った屋上で、燈子は地にへたりこんだ。

 何だか、まだ信じられない。
 私は実は夢を見ていて、こないだみたいに目が覚めたらデスクに突っ伏していて、大神課長に叩かれるんじゃないだろうか。

 だけど。

 今さっき、何とか嵌まった指輪。
 その締まりが、実感としてそこにある。


 その日初めて、
 始業開始の10分遅れで席に着いた燈子を、大神課長は叱らなかった。

 さらに後日、
 出世コースまっしぐら、最年少の業務課長、○かれたい男(ヒト)No.3、大神秋人の
プロポーズは、愛煙家達の手により、全本支社に伝わった____