「うっ、そんなにハッキリ言わなくても…では一体何ですか?」

「そ、それは…」

 大神はさらに口ごもった。
 彼は今、

__どうした俺。
 さっきから何をやってるんだ?

 いつもなら、歯の浮くようなどんな台詞も平気で言える筈なのに。
 それが…
 どうしてこんなありふれた、平凡な言葉を口にできないでいるんだ?

 脚がガクガクに震える。手にかいた油汗が気持ち悪い。

 もうすぐ休憩は、

 終わってしまう______




「赤野、赤野燈子」

「は、はいぃっ」

 朝、遅刻で叱られる時みたいにフルネームを呼ばれ、燈子は反射的に、ピシッと背筋を伸ばした。


 大神は、スウッと息を吸い込んだ。
 

「だから_______

 俺と結婚して!

 仕事を辞めて!

 九州まで着いてきて下さいと!

 そう、お願いしています!」


 よく通る彼の澄んだ声は、屋上いっぱいに響き渡った。


 瞬間、燈子の辺り一帯がスローモーションのように緩やかになった。

 それぞれの世界に浸っていた愛煙家達が振り返ったのが目端に映る。


 大神は、ポカンと口を開けている燈子にずいっと迫った。

「俺だって……ずっとずーーっと、
君が好きだったんだ」

 頬を染め、取り乱しやがらも大神は、俯かないでギッと燈子を見据える。

 燈子は___________
 

 えーっと…
 展開に今一つ付いていっていない燈子は、懸命にその内容を噛み砕こうとしていた。

「あの…えーっと
 だけど課長は、確か松嶋さんと…」

「すまないが、あまり余裕がない。
細かいコトは後にして、まずは返事を聞かせてくれないか。
 君の気持ちに聞いている。

 イエスか。それとも…ノーか」



「は、はいっ、了解…ではなく、承知しましたぁ‼」