「ちょ、痛い…痛いですって。一体どうしたんですか!?」 

 社の屋上の喫煙スペース。
 昼休みも終わりに近い時間だが、ビル風の吹きすさぶ中、まだ十数人が紫煙を燻らせ、物思いに耽っていた。

 勢いのまま、燈子を引っ張ってきた大神は、給水タンクの影で立ち止まると、今気付いたかのように、燈子の腕を慌てて離した。

「わ、悪いっ」

 ジンジン痺れる腕を擦りながら、燈子は不安に刈られていた。

__課長の様子がスゴくおかしい。
 自分がしでかしたことで、何かとんでもなくマズイことが起こったんだろうか__

「課長、一体何があったんですか?
あっ、まさか今朝のアレ……」


 何をやった。

 突っ込みたいところを何とか堪え、大神は燈子に言った。


「いや違う、それじゃない。
 もっと…大事な話になる」

 彼の重苦しい口調に、燈子はガチッと身構えた。
 まさか______

 
「その…何だ。明日、転勤の正式な辞令が降りるんだ」

「は?
 ああ!ご栄転、おめでとうございます」

 燈子はホッとした顔で、ペコりと会釈してみせた。

__違ーう!
 じゃなくって…
 しまった。慌てすぎて言うべき台詞を間違えた__

 大神は、すっかり焦っていた。

「それでその…、何だ。
 実は…君に、会社を辞めて欲しいと思っている」

「!」

 はっと息を呑む音が聞こえた。

「…やっぱり…そうなんですね…」
 燈子は寂しそうに俯いた。

「私の尻拭い、後任の1人にはもう任せられないないってコトですかね。
 4月からハロワ通わなくちゃ…失業保険、出るかなぁ」 

「いや。そうじゃなくって…任せられないっていうか、任せたくないっていうか…
 だからつまり!
 赤野には、九州に着いてきて欲しいと…俺は思っていて…」

「ええっ、まさかそんな!
 私の能力を買っての支社への引き抜き……」
「…な訳あるかっ!それだけは絶っっ対にない!」