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「はあああああ…」
「ちょっとトーコ。それ、いい加減止めてよね~。魂まで抜けちゃいそうだよ」

「…うん、ゴメン。止める…
 ふぅぁぁぁぁぁ…」
「うあ~っ、だから止めろっ、辛気くさーいっ!」
 
 近頃の赤野燈子は、溜め息ばかりを吐いていた。

 燈子の昼休みはいつも、同期の友達、総務課の実果ちゃんと一緒に過ごしている。

 最近は、二人でダイエットに挑戦中のため、小さな手作り弁当を総務課の奥で食べるのがパターンだが、今日はその3/4も残したまま。
 燈子がゴハンを残すことなんて、かつてないことだった。


__あーあ、私ったら、クマさんに酷いことしちゃったなあ…

 私どこかで、甘えてたんだ。
 そもそも仕事が一緒ってだけの関係なのに、新人の数少ない女の子だからって、たくさん構って貰えたから。
 
 どこかで私、オオカミさんとクマさんと、3人でずっとここに、楽しく居られるんだと思ってた。
 そうしたら結局、二人とも…私からは離れていっちゃった。

 にしても。
 私ってば、課長の事が好きだったんだあ…クマさんのコトも、好きだと思ってたけど。
“好き”の種類が違うのかな。
 ああ、もうわけが分かんない____
 

「燈子…ちょっと、燈子!」
「はえ?」

 気がつくと、対面の実果が燈子の肩をバシバシ叩いていた。

「はえ?じゃないわよ!
 さてはあんた、また何かやからした?」

 燈子の顔と、入り口の向こうを交互に見ながら、青い顔をしている。

「ううん、別に何も。何で?」
 
__まあ、やらかしたと言えば先週スゴいのをやらかしてるけど__
 物思いに沈みつつ、チョイチョイと卵焼きをつつく。
 と、彼女は燈子の後ろを指差した。


「だってホラ、トーコんとこの大神課長が…もの凄い勢いでこっちに向かって…キャッ」

 エ…

 燈子が振り返ると_____


「あ~~か~~の~~」
「ひぎぃっ!」

 そこには髪を振り乱し、目を血走らせて息を荒げている、恐ろしい姿のオオカミ課長が立っていた。

 条件反射で、燈子はギュッ身を縮める。

「ちょっと来いっ!」

 大神は、箸を持った右手を掴むと燈子を椅子から引っ張り上げた。

「ひっ…い、いやっ、痛くしないでっ!」

「紛らわしい言い回しをするなっ!
 いいからはやくっ、頼むからはやく来いっ。
 ああ、実果さん?ちょっと彼女、借りてくよ?」

 乱れ髪のまま、彼は実果を振り向くと、突然キラキラモードで微笑んだ。

「はうっ
 あ、はい…存分にやっちゃってクダサイ…」
 恍惚とした表情の実果を、燈子は恨めしそうに睨んだ。

 女子の結束って、なんて脆いんだろう。

「嫌だよう、実果ちゃん助けてっ。
 こ、怖いよぉ~~」

 燈子の叫びは、虚しく廊下へと消えていった。