例え早朝ランニングであれ、プレイボーイの彼は身だしなみに決して手を抜かない。

 顔を洗い、髭を剃って眉も整え、寝癖の強いボサボサヘアをきっちり固めてからでないと、人前には出ないのだ。

 トレーニング・ウェアを着こみ、玄関口にある全身鏡で頭の頂点から爪先までチェックし、彼はようやく玄関ドアを出た。

 マンションのエントランスを出ると、外はまだほの暗かった。

 凍るような晩秋の北風がひゅう、と吹き抜けて、大神はぶるっと身を震わせた。

 眠い、寒い、面倒臭い、サボリたい…。

 イヤ!
 いい仕事の基本は、フットワークの軽さにあるんだ!

 己を鼓舞し、彼は一歩を踏み出した。

 いつものコースは折り返し地点の運動公園まで約3km。
 ハードロックを聞きながら、軽く流して約13分ほど。

 5分と経たないうちに身体は寒さに馴れ、公園に着いた頃にはもう、すっかり暖まってしまう。
 軽くかいた汗を拭きながらベンチに腰かけた彼は、マイボトルのドリンクを飲み、いつものように一休みしていた。


 近頃、小型犬の散歩をしている美人を決まった場所で見かける。
 
 今日も……いた。

 中央の水のみ場の近くで白いプードルを遊ばせている。

 彼の経験上、3回目が合えば脈がある。

 大神と目があうと、ぱっと目を逸らして物憂げな様子を取り繕った彼女を見、大神はベンチを立った。

 よし!イける。

 にこやかな笑みをつくりながら、大神は彼女に近づいた。